『掃除』(アイクさん作) とある中学校の教室。 1年2組の時計の針は、あと5分で授業が終わることを意味していた。 後ろから2番目に座っている小柄な少年は、下を向きながらも上目づかいにそわそわと何度も時計の方を見ている。 彼の右手にはシャープペンシルが強く握りしめられていた。 そして左手が股間をぎゅっと抑えている。 初冬にも関わらず額には脂汗が、足は貧乏揺すりをしながら時折交差させているのが後ろから見ても分かる。 そう、彼はオシッコを我慢しているのだ。 「あぁ、オシッコしたい...。」 今は5時間目。 少年は朝から一度もトイレに行ってなかった。 3時間目の終わりに少し尿意を感じたが、そのまま4時間目の体育で持久走を走ると尿意はどこかに行ってしまい、そのまま昼食・昼休みとトイレに行きたいと感じることはなかった。 今思えば、すでに小便は膀胱に多くたまっていたのに違いない。 少年は昼休みに体育館でバスケをしてからチャイムと共に教室に戻ったのである。 だが先生への礼を済ませて冷たい椅子に座ると、急に尿意をもよおしてしまったのだ。 中学校に入ってから授業中にトイレに行った人を見たことはない。 45分ぐらい我慢できるだろうと思っていたが、少年の膀胱は限界に達しかけていた。 「トイレに行きたいよ...。あぁもれそう...。」 だがついにあと10分。 彼の頭の中はオシッコのことでいっぱいだった。 授業のチャイムと共にトイレに駆け込み、去年から導入されたというスリッパを履いて、ズボンのチャックを下ろし、トランクスからオチンチンを出してシャーっとオシッコを放出する。 その光景が頭の中で何度も繰り返される。 美術で絵の具を使ったクラスが道具を洗っているのだろうか、廊下から水道の蛇口をひねる音と共に「ジャー!」っと水の流れる音がする。 その音は限界に迫っている彼の尿意を大いに高めるのに十分だった。 「なんであんなに大きい音を出すんだよ...。ああオシッコものすごくしたい...。」 時計を何度も見るがなかなか10分が経過しない。 あと4分のようだが、今頃になって数学の先生が応用問題の解説を始めた。 「なんでそんな時間がかかることをやるんだよ...! ションベン漏れそうなんだってば! ああオシッコ我慢できない... 」 少年は今やシャーペンを机の上に投げ出し、両手で股間をぎゅっと握っていた。 前かがみの姿勢で何度も目をつぶったりする。 貧乏揺すりをしながら内股で膝と膝をすり合わせる。 後ろの友人が小声で話しかけてきた。 「おいお前、ションベン行きたいんじゃないのか?」 「早く終わってほしいよ...。漏れそう...。」 「かなりやばそうじゃないか。先生に言って行かせてもらったら?」 「いや、いい...。」 このクラスで初めて授業中にトイレに行ったのが僕なんて、そんなのいやだ。 それに、あと何分...だっけ。 チャイムの音が鳴った。 少年の頭に描いた映像ではこの音と共にトイレにダッシュ、ギリギリセーフのはずだった。 しかし...。 先生は最後の長い計算の板書をしている最中だった。 「なんで誰も何も言わないんだよ...。」 少年は半泣きだった。 今日の授業はこれで全て終わり、最後に掃除の時間である。 廊下には談話の声が聞こえ始めていた。 「早くトイレに行かないと、トイレの掃除が始まっちゃう...。」 1年生の男子トイレは3年生が掃除することになっている。 彼は以前も掃除中にトイレに行こうとしたことがあったのだが、柄の悪い先輩達に囲まれそうになって、慌てて出て行ったのだった。 掃除の15分間を我慢できる余力は少年には残されていなかった。 「3年生が来る前にオシッコしなくちゃ...。」 顔をほてらせながらも青ざめている苦渋の表情の少年は、黒板に板書をしている先生の所へ意を決して行った。 両手で股間を抑えながら。 「あの、先生...。」 先生はなかなか気付かない。 「先生、あのすいません...。」 先生はうっとうしそうに振り返った。 「なんだい、真也くん。」 「あの、トイレに行ってもいいですか?」 いつも静かな美少年の苦渋を可愛く思ったのか、いくぶん微笑みながら先生は言った。 「今授業中だぞ。なんで休み時間に済ませておかないんだ...おっとすまないな、もうチャイム鳴ったのに。あと2行で終わるからそれを写し終えたらトイレに行っていいぞ。」 先生は優しく言ったつもりだったようだが、オシッコが今にも漏れそうな少年にとってはとても受けいれられる話ではない。 少年は片足を持ち上げるようにしてそわそわと足踏みしながら先生の懇願した。 「あの、オシッ...いやトイレ...、どうしても我慢できないんです...。」 そう言って涙顔になっている彼をクラスメートたちが大笑いする。 「真也くんかわいい〜オシッコ我慢できないんだって。」 「あいつさっきからそわそわとしてたもんな〜。」 先生は笑いながら言った。 「そんなにオシッコ我慢してたのにごめんな。すぐ行ってこい。次からはちゃんと休み時間にトイレに行っておくんだぞ。」 足踏みしながら先生の話を聞いていた少年は後も振り返らずに、今にも漏れそうなオシッコが溢れ出ないように注意しながら、小走りでドアの方へ走り寄る。 ドアを開けるのに手間取り、またクラス中が大笑いする。 「しょうがないなあ。」と先生が代わりにドアを開けてくれた。 少年は脂汗をかいた苦渋の表情を浮かべている目にいくらか安堵の表情を浮かべ、前かがみで股間を両手で抑えながら、人をかきわけトイレに向かって廊下を一目散に走っていった。 少年の苦難が実はこれからであるとは、トイレを目指している少年には知るよしもなかった。 →A |