(ふう、間に合った…。
 今日は練習がギリギリまであったから、
 着替えずに来ちゃった。)

少年の席はクーラーの風が一番よく当たる場所。

走って入って来た時にかいていた汗は、
あっという間にひいていく。

(ああ、気持ちいい。)

彼は快適な空間の中で先生の説明に耳を傾け、
数学の問題を解き始めた。

少年が下腹部に違和感を感じたのは、
それから10分後のことだった。

(なんだかトイレに行きたくなりそう…。)

それはまだ少年の体内ではっきりと欲求を訴えているわけではないが、
さっきひいていった汗の水分が下半身に集まって来ているような感じがする。

(授業中にトイレに行きたくなっちゃったら困るんだけど…。
 ここ、冷えるんだよなあ…。)

半ズボンのユニホームで来たことが少し悔やまれるが、
中2にもなれば1回のトイレぐらい我慢できるものだ。

達也は体が冷えないように、
周りに目立たないよう気をつけながら、
左手で膝のあたりをさすってみた。

これでなんとか気はまぎれる。

しかし、膀胱にはやはり少し水分が溜まってきているようである。

少年は問題を解く手を休めながら、少し考える。

(ちょっとトイレに行きたくなってきちゃった…。
 練習の時にお茶を飲み過ぎたのかなあ?
 …あ、そういえば今日クラブが始まってから一度もトイレに行ってなかったな…。
 ヤバい、考えれば考えるほどトイレに行きたくなりそう…。)

どうしてもトイレに行きたいというわけではないのだが、
問題を解くときも先生の話を聞くときも、
なんだかそわそわ落ち着かない。

たくし挙げてみたら勢いよく出てきそうな気もする。

(やっぱりトイレに行かせてもらおうかな…。)

いやだめだ。少年は自分の体に言い聞かせる。

ここはトイレの音が丸聞こえ。

美人の女の先生2人に小便をする音を聞かれるのはすごく恥ずかしいし。

いやそれでも先週だったら恥をしのんでトイレに行かせてもらってたかも。

しかし彼の後ろの席には、おととい入塾した、
同じクラスのサキちゃんがいたのだ。

そしてトイレはサキちゃんの席のすぐ後ろなのである。

トイレを使うにはサキちゃんに「ごめん、トイレ行くから椅子ひいてくれる?」とか言わないといけないし、ましてあんな間近で自分がオシッコする音を彼女に聞かれたくはない。

だいたいあんなに近かったら、ユニホームのひもを外す音からその半ズボンとトランクスを下ろす音まで、全部聞かれてしまうではないか。

 
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