今日の授業は、80分だ。…あと51分。

51分ぐらいなら、ガマンできる。

そう言い聞かせなければならないぐらい、
どうやら達也の膀胱は強い尿意を訴え始めていた。

クーラーの風が半ズボンの裾から冷たい空気を少年の下半身全体に伝える。

靴下の中まで冷えきりそうなのを、
少年はふくらはぎや膝をさすってまぎらわせる。

この寒い悪条件の中で、達也があの時ためらいなく飲んだ大量のお茶が、
出口を求めて一気に膀胱に集まってきているようであった。

先生が達也の机まで来て教えてくれる。

説明を聞きながら、ちらっと時計を見ると、あと39分。

いつもの達也ならちょっと考えれば分かりそうな問題が、
なかなか解けない。

「いい、達也くん、もう1回ここからやってみて。」

言われるとおりにシャーペンを動かすが、
数行書く度に苦しげな息が漏れる。

無意識のうちに足を交差させたりして、しきりに姿勢を何度も変えていた。

(ああ、トイレに行きたい…。)

オレ、中2だし。

あと30分ちょっとぐらい、ガマンできるよな。

どうしてもガマンできなくなったら、先生に言ってトイレ行かせてもらおっと。

「達也くん、また同じ所で間違ってるけど、
 私の説明したこと、ちゃんと分かってる?」

若い方の先生が、優しいけどちょっと不機嫌な顔で聞いてきた。

「あ…あの…、もう一つよく分からないんですけど…。」

先生は根気よく説明を続けた。

少年は膝と膝をすり合わせながらこの苦痛に耐えている。

(ああ、早く前に行ってくれないかな…。
 目の前で静かに聞いてるの、ちょっとつらいんだけど…。」

トイレはなんとかガマンできそうなのだが、じっと動かずに聞いていると、
不意に下腹部に強烈な波が押し寄せてくるのだ。

やっと解けた…。

「はいよくできたわね。じゃ次の問題、みんなの前で解説するから達也くんも考えといてね。」

先生の言われるままにシャーペンを動かしていたらなんとか解けたようで、
先生は前の方へ戻っていった。


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